夏に向けての課題図書。

W杯が始まった訳ですが、この時期はサッカー関連書籍が増えてくる時期でもあったりして。せっかくなので最近読んだサッカー関連書籍をさらっと紹介します。現状は5冊ですが、今後増える可能性も。

2冊追加しました。(7/3) 

1冊追加しました。(7/21)

 

セルティック・ファンダム―グラスゴーにおけるサッカー文化と人種

セルティック・ファンダム―グラスゴーにおけるサッカー文化と人種

 

実際に購入したのは1年前で、なんとなく読まずに積んでいたのだが、先月アイルランドに行ったことをきっかけに読み始めた一冊。

グラスゴーの街を二分するセルティックとレンジャーズ。この両クラブのサポーターの有り様について、現地にてセルティック側の立場から取材を行い、その実態についての考察が詳細に記されている。歴史的に見れば歴史的な移民問題と宗教対立から始まるセクト主義が色濃く反映されてきた両クラブの対立構造。それは時を経るにつれイングランドスコットランドの関係性や人種問題にも発展し、単純なカトリックアイルランド移民とプロテスタントスコットランド人という二元的な構造からより複雑な対立構造へと変化を遂げている。だが、それも全ては緑と青の対立という単純な感情に包含されてしまう面もあって、この辺がいかにもサッカーと政治の関わりっぽくて面白い。

元々筆者の博士論文がベースとなっているので文章はかなり硬めだが、取材内容は深く掘り下げられており、グラスゴーというスコットランドの一都市が持つ政治的な難しさを知るには十分な内容。ただ、ここから北アイルランド紛争とかの方向に話を結びつけていく事を期待して読むと恐らく肩すかしを食らうと思われる。逆に150年余の年月によりスコットランドアイルランドはそれぞれの道を進んでいる事を感じさせられる内容だったと私自身は感じている。

 

東欧サッカークロニクル

東欧サッカークロニクル

 

ここからは自分のTLでも話題になっていた2冊。まずは1冊目の流れからサッカーから見える世界ということでこの本を選択。筆者の居住地であるクロアチアを中心に東欧、北欧のサッカーと文化に触れることの出来る一冊。それぞれ興味深い内容が多く非常に知識欲が刺激される内容となっている。

ただ、紹介されているそれぞれの内容についてはもう少し掘り下げられていてもという思いも残っている。恐らく筆者の経歴を鑑みてももっと深い話を持っているのは間違いないとは思うのだが、その疑問は巻末を見た瞬間に解決した。本作において最も面白かったのモルドバ沿ドニエストル)の他数カ国の記事は筆者が運営していたHPが初出であり、残る大半は雑誌記事が初出であったのだ。雑誌の中の限られたページ数では確かにこのくらいの掘り下げ方にならざるを得ないということなのだろう。

大したことも書けないライターにページ数を割くくらいなら、こういう方にページ数を割いていただけないものだろうか。サッカーマスコミの病巣ってライターだけじゃなくて採用する編集側にもあるということをこんな所で実感するとは思わなかった。

 

もう一冊はTLでも、というか日本中で話題になっていたこの本。

冷静に読んでみるとハリルホジッチ就任後から辞任に至る期間における世界のサッカーの潮流と、そこに対する日本代表としてのアプローチが記されている戦術書の色合いが強い。それだけに、解任という状況により加筆されたであろう部分の方が強調されるのは勿体ないとも思ってしまう。

では、その肝心の戦術書としての部分についてどうかといえば、モデルケースとなる試合を使って分かりやすく説明がなされており、ハリルホジッチ氏の目指そうとしていたと思われるサッカーへの理解は非常に深まった感触は得ている。ただ、ボールゲームとしてのサッカーの持つ特質の説明については、構成上浮いてしまっている上にそれまでの内容との繋がりが分かりにくかった点については不満が残った。

また、グループステージにおける対戦国へのアプローチが分析段階で止まってしまい、その解決策明確にならないまま宙ぶらりんになってしまったところは非常に残念である。恐らく筆者なりの推論はあったに違いないし、本来なら本大会で答え合わせをした上で改めて何らかの形で発表される筈だったでのではないだろうか。そう思うと解任の割を食った部分だったのかもしれない。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー

  • 作者: レナート・バルディ,片野道郎
  • 出版社/メーカー: ソル・メディア
  • 発売日: 2018/06/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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続いては戦術書にシフトしてこの一冊。現在はトリノで戦術解析専門のコーチ業を行うバルディ氏と在伊のジャーナリスト片野氏との対談形式により、最新のサッカー戦術について紹介する本。

先述の通り最新のサッカー事情について良く纏められており、特に守備と攻撃時において可変するシステムや予防的カバーリングについての考え方、モダンサッカーにおける5つの戦術的キーワードの部分については今からでも遅くないので一読しておくと、これからのグループリーグ、決勝ラウンドの観戦においてかなり有用だと思われる。また、同じ第2章のチーム分析のフレームワークはカテゴリを問わずチームを分析する際に使える考え方として纏められているので、実際に現場で試合を見てあれこれ分析をしなければならない方にはこちらもお薦めである。

他の部分についてもサッカーと向き合うにあたり有益となる情報が会話のあちこちにちりばめられており、まさしく「教科書」の名にふさわしい内容となっている。

 

詳しいことはわかりませんが、サッカーの守り方を教えてください

詳しいことはわかりませんが、サッカーの守り方を教えてください

 

最後はもう一冊、数日前に発売されたばかりの守備戦術書。松田浩氏といえば名著「サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論」の著者であるが、今回はその入門編という位置付けの本となっている。言い方は悪いが、既に「サッカー守備戦術の教科書」を読んでいる人には全くお勧め出来ない。その代わり、まだ未読の人や読み始めたが分かりにくいと感じていた人はこちらの本から入ることをお薦めする。

また、これらの本を読んだ後に優れたゾーンディフェンスを敷いているチームの試合を見てみるとより理解が深まるかと思われるのでそちらもお薦めしたい。私が「サッカー守備戦術の教科書」を読んだ直後だと優勝した年のレスターが良いモデルケースとなっていたものであるが、今のW杯なら是非アイスランドの試合を戦術カメラのアングルで見るのが良いのではないだろうか。

 

  

消えたダービーマッチ~ベルファスト・セルティック物語~ (コスモブックス)

消えたダービーマッチ~ベルファスト・セルティック物語~ (コスモブックス)

  • 作者: 加藤康博
  • 出版社/メーカー: コスミック出版
  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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実は1冊目に紹介したセルティック・ファンダムのリンクを貼ろうとした時に、たまたまアマゾンの検索で引っかかった本でした。思わずすぐに購入して読んだ訳ですが、セルティック・ファンダムがグラスゴーにて独自に変容していったセルティックとレンジャーズの対立構造を深掘りしていく書であったのに対し、この本はダイレクトに北アイルランドにおけるカトリックプロテスタントナショナリストユニオニストの対立構造と、その中である事件をきっかけに消滅したベルファストセルティックというクラブを中心とした北アイルランドのサッカー文化と歴史を軸に構成されている。

出版されたのは8年前であり、その後北アイルランド代表はEUROにも出場するなど時代は流れているのだが、その現在に繋がる歴史は十分に窺い知る事が出来た。それもIFAとFAIというアイルランド島に存在する2つのサッカー協会の成り立ちやゲーリックゲームズとの共存に伴う所謂「ルール42問題」など押さえるべき事柄がきっちり押さえられていたからに他ならない。

勿論グラスゴーセルティックにも言及している部分もあるので、セルティック・ファンダムとセットで読む事をお薦めしたい。

 

 

ディス・イズ・ザ・デイ

ディス・イズ・ザ・デイ

 

こちらはTLにて盛り上がっていた一冊。22チームで構成される2部リーグの最終節、全試合同時キックオフ。その11試合に関わる22チームのサポーター達の日常の一欠片を取り出した短編集。昇格と降格が入り乱れ、集う人々の熱気はあるがどこか長閑なスタンド、世間からの目線もあるようでない。この2部という舞台設定の絶妙さ。まずその一点だけでも素晴らしいものがある。

個人的には鯖江対倉敷、川越対桜島あたりが好きだが、恐らくこれは読んだ人で完全に意見が分かれると思う。それくらいどの話もどこかで誰かの琴線に触れる面白さや共感めいたものがある。そして自分がこの本の最大の魅力だと思ったのは、これが最終節同時キックオフだということ。つまり、話が進むにつれて徐々にぼやけていた輪郭が鮮明になってきて、それ故に見えてくるものと向き合いつつ結末を読み進めることになる。その感覚が妙に面白かったのだ。

リアルな戦術論や政治の話を読むのに疲れたら、いや、そうでなくても是非とも手にとっていただきたい。そんな一冊である。

 

 

元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論

元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論

 

1年前に刊行された本で、購入して途中まで読んでその後積んでいたのだが、W杯におけるセットプレーの現状を見て改めて読み始める。最先端理論と謳っているのであっと驚くような理論が展開されると誤解しがちだが、基本はセットプレーに対する体系化とそこに対する新しい取り組みが中心。特にCKに関しては非常に良くまとまっているので、実際の観戦後に何度か読み返してフィードバックしていくと良いと思われる。ただ、ロングスローやゴールキックからの攻めの構築につても言及はしているが、この辺はまだ模索段階という印象を受けた。

この本の元記事が連載されていたのは2015〜16なので、今回のW杯で話題になったバスケットのようなセットプレーの考え方などはまだ紹介されてはいない。2016ユーロについてはあまり肯定的な印象を抱いていなかった筆者だが、このような進歩が見られた今大会のセットプレーについてはどのように解析しているのかは気になるところ。恐らく連載していたフットボリスタでフォローされると個人的には信じているのだがどうだろうか。