2018地域CL決勝ラウンド最終日雑感。

刈谷4-1宮崎

 

【宮崎】

スタートから刈谷のテンションに圧倒され1点を失い、手を変えながら必死に流れを引き戻そうとしたが刈谷FW西原のスピードにCBが全く対応出来ずチェ・ボンウォンが33分で黄色2枚を献上し退場。サイドからの攻撃に活路が見えて、刈谷の目が外に行ったところを逆用して中央から繋いで1点を奪ったのが精一杯。残念ながら3連敗という結果となってしまった。最初からもっとこれまでの戦いを捨てて守備的な手を尽くしていたら、佐野の調子が万全であったら、たらればを言えば切りはないのかもしれない。しかし、そのたらればを足し込んでもこの中で2位以内になる絵は自分には描けなかった。それでも出来る手は尽くして戦い抜いた事は必ず来年以降に生きてくると信じたい。

 

刈谷

試合自体は満点の出来。この日初スタメンの浜田は点を奪い、西原はスピードで宮崎から退場者を引き出す事に成功。失点をした時間帯はやや左サイドが押されたが、そこにすぐ交代選手を投入して封じ、最後は強みである走力差で圧倒して追加点を奪い目標の2点差以上をクリアした。ただ、それでも結果として2位には届かなかった。恐らく昨年の決勝ラウンドに今年の刈谷がいたら1位で抜けていたと思う。最大の不運は松江と鈴鹿と同じ年になってしまった事と言っても過言ではない。

それでもなお理由を求めるのならば、それは鈴鹿との直接対決で敗れた事であり、更に掘り下げるなら、松江と当たって疲弊した状況で鈴鹿との直接対決を迎えたという試合順、チームとして上昇するきっかけが全社と鈴鹿より一足早かった点、リーグ戦の直接対決で勝った事で逆にマークされる立場に入れ替わったこと、いずれも些細だけどそれが大きな差になってしまった。それこそがこの大会の持つ難しさであり残酷さなのだろう。

必ず刈谷はまたここに戻ってくる。その時こそは笑顔で終わって欲しい。今はそれしか考えられない。

 

松江2-0鈴鹿

鈴鹿

メンバーがガラッと変わり、これまでの空中戦から一転足元で繋ぐサッカーで臨むも松江の前にほぼ完封されて終了。やはり一昨日に決めてしまった影響は大きく出ていたと言わざるを得ない。もし両チームとも万全の状態ならどんな試合になっただろう。松江の攻めを鈴鹿は耐えられたのか。そして鈴鹿の空中戦は松江に風穴を開けられたのか。その答えは来年の楽しみにとっておこう。

ここまでの経緯を改めて振り返るとターニングポイントは一次ラウンドの浅間戦。前半浅間のスピードにCBがやられ、藤井が1枚イエローを貰った場面。ここで浅間が徹底して藤井のところを突いて退場に追い込まれていたら、もしくは後半から空中戦主体に変えた時に運悪く点が奪えていなかったら。そのどちらかが起こっていたら恐らく鈴鹿はここにはいなかっただろう。しかし、鈴鹿はこのチャンスの細い糸を鷲掴みにして手繰り寄せ、更にチームとして最後のひと伸びとなる自信を持って臨むことの出来る戦い方を手にした。そういう意味であの一次ラウンドは鈴鹿にとって大きな意味を持っていたと思う。

改めておめでとうございます。そして胸を張って「次の10年」に向かって突き進んでください。

 

【松江】

これまで攻撃の核となっていた宮内の出場停止。正直なところ全社、決勝ラウンドを見てきてずっと気がかりだった頻繁にジャッジに対して不平を示す彼の弱みがここに来て露呈した結果となってしまった。代わりに右サイドに入った赤尾はクロスの精度はあるが宮内ほど中や逆サイドまで動くタイプでは無い。それもあってか、この日の松江は細かいパスで一つ一つ相手のラインを突破するのではなく、一本のパスで2つのラインを一気に突破するようなシンプルな攻めを構築する。そして、得点はいずれもセットプレーだが、流れの中でも決定機は圧倒的に松江の方が上。

弱点と目された後半も松江の方が押していたのだが、観戦仲間の指摘が一つ松江の持つ強度のヒントを与えてくれた。ピッチを縦に5つのゾーンに区切った所謂「5本のレーン」。詳細は他のメディアに任せるが、これを完全に意識したポジショニングを攻守両面で構築しているのが見えてきた。攻めでいえば、これまで見てきた逆サイドへのそこにいるのが決まっているかのようなサイドチェンジ、こぼれ球に対する的確なポジショニング、宮内が見せる頻繁なポジションチェンジに対しても崩れないバランスの全てが同じ考え方をベースに成り立っているのがよく分かる。守備でもアンカーの位置にいる田平が奪われた後に危険な「薄い」レーンを埋めてカウンターの芽を的確に塞いでいた。これまでも同じ考え方でプレーはされていたのだろうが、宮内の不在によりやや単純化された事でそれが鮮明に浮き上がってきた結果となった。恐らく、これ以上に細かい事を自分が気付かないだけでもっと突き詰めているのだろう。それをこの環境と限られた時間で構築できた事は脅威すら感じる。間違いなく自分がこれまで見てきた地域CLで最強のチームだったと断言出来る。

これだけのサッカーをどうやってこのカテゴリのチームに落とし込んだのか、そのメソッドを監督、スタッフに何処でも良いから取材して欲しいし、出来るなら何らかの形で残して欲しい。これは絶対にこの国のサッカーの財産になる。そして、このサッカーを継続するであろうことは疑い無いだけに、JFLという別の意味で過酷な環境下でどこまで戦えるか本当に楽しみである。改めておめでとうございます。そしてこれだけのサッカーを見せてくれて心からありがとうございました。

 

 

2018地域CL決勝ラウンド2日目雑感。

鈴鹿2-1刈谷

 

鈴鹿

風上を取って相手のゴールエリアにとにかく何度もボールを送り込むという、徹底した空中戦狙いは前半ばっちり嵌った。それでも1点しか奪えなかったことは後半尾を引くのではという見立てはあった。そして実際後半立ち上がりから刈谷の時間帯が続いたのだが、その中でのエフラインのゴールがある意味勝負を決めたと言っていいだろう。ただ今思えば、あれだけ前半ゴールエリアの中で勝負していたエフラインが何故かあの時だけペナルティスポット付近まで下がっていたことによりマークが完全に外れていたものだった。もしかしたら、前半の攻めが刈谷の頭の中に残っていて、無意識にDFラインが下がっていたのかもしれない。そしてそれを見逃さなかったエフラインはさすがと言えよう。

 

刈谷

一昨日と同様後半のスタミナ勝負に持ち込めたと思ったところの失点。あれでチーム全体の雰囲気がガクッと落ちてしまい、立て直すのに相当の時間を要してしまった。もしあの場面で失点が無く先に奪えていたら逆転の目まであったと思っている。そんな中でも残り15分は刈谷ペースで押し込んでいたのだから、やっぱり今年の刈谷は最後まで落ちないところが強みになると見ていい。負けたが最後1点は返した。そしてここまで警告0で乗り切った。これがもしかしたら最後の最後でモノを言うかもしれない。勝負は最後まで分からないを体現してきた刈谷らしい展開にはなってきた。

 

松江2-1宮崎

 

【松江】

ここまで映像含めて4試合。このチームの一番の良さはポジショニングなんだろうなという結論に達しつつある。特に前半は繋げたいところ、突きたいスペース、埋めたいスペースに悉く松江の選手が顔を出していた。何度も言うが、この戦術的な練度は非常に高い。ただ、少しずつその動きにズレが出てきた後半思い通りの試合運びを出来なかったように見えたのは気がかり。そこで交代のカードを切るタイミングが遅かったということは、控えメンバーがそこまでの水準に達していないのだろうかという懸念も。しかも攻撃の核となる宮内は累積黄色2枚で明後日は出られない。明後日の大一番に向け、どこまで選手の疲労が回復できるか。そして宮内がいない中での戦術的な強度は保たれるのか。最後の試練が松江の前には立ちはだかっている。

 

【宮崎】

松江の前に何一つさせて貰えなかった前半。後半DFを4枚から3枚に変える、残り30分の時点からCBを前に上げてパワープレーに出る、交代もどんどん注ぎ込むとやれる事はやり切ったが、疲れが見えてトーンダウンした松江から1点を奪う事がやっとだった。大黒柱の佐野を欠いていた事は仕方ない所だが、そうであれば昨日のスタート段階から長良川の浅間戦でで見せたと聞いている徹底した守備戦術を使うという割り切りも必要だったのではと感じる。ただそれはそれで何処かで綻びが出たかもしれない。最後まで最適解を見出せないまま終戦を迎えてしまった。

 

 

2018地域CL決勝ラウンド初日雑感。

選評を書くほどの気力も無いので各チームにおいて気になったことを少しだけメモ代わりに。

 

刈谷1-1松江

 

刈谷

とにかく前半を1失点で切り抜けられたのが大きかった。その要因として右サイドバック長野の存在があったように思う。松江は右サイドの宮内が入り込むスペースを作るために左サイドから縦に入って行くことが何度かあったのだが、そこで上手く長野が松江左サイドバック平林の突破を止めて左サイドの深いところに入り込ませなかった。やられる場面も多かった刈谷のDFだけど、特に宮内を生かすために勝っておきたかった松江左サイドの攻防戦を最小限の被害で食い止めたのは実は大きな意味があったのではないかと思われる。

 

【松江】

鋳造さんの予想大会でも書いたが、とにかく戦術的な約束事の徹底ぶりが凄い。特に攻守両方の切り替えに対する意識が頭抜けて高い。(今流行りの言葉で言うとポジトラとネガトラってやつ)そして今日見て認識を改めたのは攻めに転じた時の圧倒的な早さ。次の準備ができるポジショニングを常に選手たちが取ろうとしていて、奪った選手はそのポジショニングの約束事通りに選手がいる事を確認出来ればいいだけなので、少ないタッチで前線へボールを送り込める。先制点はまさにその典型例とも言える素晴らしいゴール。あれは映像があれば是非見ていただきたい。

 

鈴鹿3-0宮崎

 

鈴鹿

長良川での一次ラウンドの宮崎戦(事情により前半20分くらいしか見られなかったが)比較して感じたのはゴール前に行くまでの手数が明らかに少なくなったこと。藤沢とエフラインへのシンプルな放り込みに対し、宮崎の両センターバックは完全に抑え込みきれなかった。ここについては、研究の成果と浅間戦後半で得た攻めに対する手応えがチームを変えたのではないかと感じた。後半の宮崎の5トップに対して両サイドハーフを下げて6バックで守るという対応は正直驚いたが、元々DFラインが水際で凌ぐ守備は鈴鹿お家芸なので、DFラインに人数をかけるという物量作戦は実際最も適切な守り方だったのではないかと今考えると納得できたりもする。

 

【宮崎】

0ー2になって早々に4-4-2から5バックで攻めになると両サイドバックが上がって5トップになる布陣に変えてきた。多分こういう状況を想定して準備してきた戦術だとは思ったのだが、逆にこれが思いの外機能し過ぎたのが痛かったのではと感じている。戦術を変えたのが重富を投入した33分。その後ハーフタイムを挟むのだが、ここで鈴鹿に割り切った対応策を選手に伝えられてしまったことで手詰まりの状況が加速してしまったように見えた。前半はとにかく耐えて後半から戦術を変えていたら結果はどうなっていただろうと思うが、この状況で前半からカードを切るのも正しい判断だったと思うだけに、悪い時は得てして裏目に出やすいという難しさを感じた。

 

 

夏に向けての課題図書。

W杯が始まった訳ですが、この時期はサッカー関連書籍が増えてくる時期でもあったりして。せっかくなので最近読んだサッカー関連書籍をさらっと紹介します。現状は5冊ですが、今後増える可能性も。

2冊追加しました。(7/3) 

1冊追加しました。(7/21)

 

セルティック・ファンダム―グラスゴーにおけるサッカー文化と人種

セルティック・ファンダム―グラスゴーにおけるサッカー文化と人種

 

実際に購入したのは1年前で、なんとなく読まずに積んでいたのだが、先月アイルランドに行ったことをきっかけに読み始めた一冊。

グラスゴーの街を二分するセルティックとレンジャーズ。この両クラブのサポーターの有り様について、現地にてセルティック側の立場から取材を行い、その実態についての考察が詳細に記されている。歴史的に見れば歴史的な移民問題と宗教対立から始まるセクト主義が色濃く反映されてきた両クラブの対立構造。それは時を経るにつれイングランドスコットランドの関係性や人種問題にも発展し、単純なカトリックアイルランド移民とプロテスタントスコットランド人という二元的な構造からより複雑な対立構造へと変化を遂げている。だが、それも全ては緑と青の対立という単純な感情に包含されてしまう面もあって、この辺がいかにもサッカーと政治の関わりっぽくて面白い。

元々筆者の博士論文がベースとなっているので文章はかなり硬めだが、取材内容は深く掘り下げられており、グラスゴーというスコットランドの一都市が持つ政治的な難しさを知るには十分な内容。ただ、ここから北アイルランド紛争とかの方向に話を結びつけていく事を期待して読むと恐らく肩すかしを食らうと思われる。逆に150年余の年月によりスコットランドアイルランドはそれぞれの道を進んでいる事を感じさせられる内容だったと私自身は感じている。

 

東欧サッカークロニクル

東欧サッカークロニクル

 

ここからは自分のTLでも話題になっていた2冊。まずは1冊目の流れからサッカーから見える世界ということでこの本を選択。筆者の居住地であるクロアチアを中心に東欧、北欧のサッカーと文化に触れることの出来る一冊。それぞれ興味深い内容が多く非常に知識欲が刺激される内容となっている。

ただ、紹介されているそれぞれの内容についてはもう少し掘り下げられていてもという思いも残っている。恐らく筆者の経歴を鑑みてももっと深い話を持っているのは間違いないとは思うのだが、その疑問は巻末を見た瞬間に解決した。本作において最も面白かったのモルドバ沿ドニエストル)の他数カ国の記事は筆者が運営していたHPが初出であり、残る大半は雑誌記事が初出であったのだ。雑誌の中の限られたページ数では確かにこのくらいの掘り下げ方にならざるを得ないということなのだろう。

大したことも書けないライターにページ数を割くくらいなら、こういう方にページ数を割いていただけないものだろうか。サッカーマスコミの病巣ってライターだけじゃなくて採用する編集側にもあるということをこんな所で実感するとは思わなかった。

 

もう一冊はTLでも、というか日本中で話題になっていたこの本。

冷静に読んでみるとハリルホジッチ就任後から辞任に至る期間における世界のサッカーの潮流と、そこに対する日本代表としてのアプローチが記されている戦術書の色合いが強い。それだけに、解任という状況により加筆されたであろう部分の方が強調されるのは勿体ないとも思ってしまう。

では、その肝心の戦術書としての部分についてどうかといえば、モデルケースとなる試合を使って分かりやすく説明がなされており、ハリルホジッチ氏の目指そうとしていたと思われるサッカーへの理解は非常に深まった感触は得ている。ただ、ボールゲームとしてのサッカーの持つ特質の説明については、構成上浮いてしまっている上にそれまでの内容との繋がりが分かりにくかった点については不満が残った。

また、グループステージにおける対戦国へのアプローチが分析段階で止まってしまい、その解決策明確にならないまま宙ぶらりんになってしまったところは非常に残念である。恐らく筆者なりの推論はあったに違いないし、本来なら本大会で答え合わせをした上で改めて何らかの形で発表される筈だったでのではないだろうか。そう思うと解任の割を食った部分だったのかもしれない。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー

  • 作者: レナート・バルディ,片野道郎
  • 出版社/メーカー: ソル・メディア
  • 発売日: 2018/06/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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続いては戦術書にシフトしてこの一冊。現在はトリノで戦術解析専門のコーチ業を行うバルディ氏と在伊のジャーナリスト片野氏との対談形式により、最新のサッカー戦術について紹介する本。

先述の通り最新のサッカー事情について良く纏められており、特に守備と攻撃時において可変するシステムや予防的カバーリングについての考え方、モダンサッカーにおける5つの戦術的キーワードの部分については今からでも遅くないので一読しておくと、これからのグループリーグ、決勝ラウンドの観戦においてかなり有用だと思われる。また、同じ第2章のチーム分析のフレームワークはカテゴリを問わずチームを分析する際に使える考え方として纏められているので、実際に現場で試合を見てあれこれ分析をしなければならない方にはこちらもお薦めである。

他の部分についてもサッカーと向き合うにあたり有益となる情報が会話のあちこちにちりばめられており、まさしく「教科書」の名にふさわしい内容となっている。

 

詳しいことはわかりませんが、サッカーの守り方を教えてください

詳しいことはわかりませんが、サッカーの守り方を教えてください

 

最後はもう一冊、数日前に発売されたばかりの守備戦術書。松田浩氏といえば名著「サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論」の著者であるが、今回はその入門編という位置付けの本となっている。言い方は悪いが、既に「サッカー守備戦術の教科書」を読んでいる人には全くお勧め出来ない。その代わり、まだ未読の人や読み始めたが分かりにくいと感じていた人はこちらの本から入ることをお薦めする。

また、これらの本を読んだ後に優れたゾーンディフェンスを敷いているチームの試合を見てみるとより理解が深まるかと思われるのでそちらもお薦めしたい。私が「サッカー守備戦術の教科書」を読んだ直後だと優勝した年のレスターが良いモデルケースとなっていたものであるが、今のW杯なら是非アイスランドの試合を戦術カメラのアングルで見るのが良いのではないだろうか。

 

  

消えたダービーマッチ~ベルファスト・セルティック物語~ (コスモブックス)

消えたダービーマッチ~ベルファスト・セルティック物語~ (コスモブックス)

  • 作者: 加藤康博
  • 出版社/メーカー: コスミック出版
  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • クリック: 19回
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実は1冊目に紹介したセルティック・ファンダムのリンクを貼ろうとした時に、たまたまアマゾンの検索で引っかかった本でした。思わずすぐに購入して読んだ訳ですが、セルティック・ファンダムがグラスゴーにて独自に変容していったセルティックとレンジャーズの対立構造を深掘りしていく書であったのに対し、この本はダイレクトに北アイルランドにおけるカトリックプロテスタントナショナリストユニオニストの対立構造と、その中である事件をきっかけに消滅したベルファストセルティックというクラブを中心とした北アイルランドのサッカー文化と歴史を軸に構成されている。

出版されたのは8年前であり、その後北アイルランド代表はEUROにも出場するなど時代は流れているのだが、その現在に繋がる歴史は十分に窺い知る事が出来た。それもIFAとFAIというアイルランド島に存在する2つのサッカー協会の成り立ちやゲーリックゲームズとの共存に伴う所謂「ルール42問題」など押さえるべき事柄がきっちり押さえられていたからに他ならない。

勿論グラスゴーセルティックにも言及している部分もあるので、セルティック・ファンダムとセットで読む事をお薦めしたい。

 

 

ディス・イズ・ザ・デイ

ディス・イズ・ザ・デイ

 

こちらはTLにて盛り上がっていた一冊。22チームで構成される2部リーグの最終節、全試合同時キックオフ。その11試合に関わる22チームのサポーター達の日常の一欠片を取り出した短編集。昇格と降格が入り乱れ、集う人々の熱気はあるがどこか長閑なスタンド、世間からの目線もあるようでない。この2部という舞台設定の絶妙さ。まずその一点だけでも素晴らしいものがある。

個人的には鯖江対倉敷、川越対桜島あたりが好きだが、恐らくこれは読んだ人で完全に意見が分かれると思う。それくらいどの話もどこかで誰かの琴線に触れる面白さや共感めいたものがある。そして自分がこの本の最大の魅力だと思ったのは、これが最終節同時キックオフだということ。つまり、話が進むにつれて徐々にぼやけていた輪郭が鮮明になってきて、それ故に見えてくるものと向き合いつつ結末を読み進めることになる。その感覚が妙に面白かったのだ。

リアルな戦術論や政治の話を読むのに疲れたら、いや、そうでなくても是非とも手にとっていただきたい。そんな一冊である。

 

 

元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論

元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論

 

1年前に刊行された本で、購入して途中まで読んでその後積んでいたのだが、W杯におけるセットプレーの現状を見て改めて読み始める。最先端理論と謳っているのであっと驚くような理論が展開されると誤解しがちだが、基本はセットプレーに対する体系化とそこに対する新しい取り組みが中心。特にCKに関しては非常に良くまとまっているので、実際の観戦後に何度か読み返してフィードバックしていくと良いと思われる。ただ、ロングスローやゴールキックからの攻めの構築につても言及はしているが、この辺はまだ模索段階という印象を受けた。

この本の元記事が連載されていたのは2015〜16なので、今回のW杯で話題になったバスケットのようなセットプレーの考え方などはまだ紹介されてはいない。2016ユーロについてはあまり肯定的な印象を抱いていなかった筆者だが、このような進歩が見られた今大会のセットプレーについてはどのように解析しているのかは気になるところ。恐らく連載していたフットボリスタでフォローされると個人的には信じているのだがどうだろうか。

 

 

 

 

 

都市対抗野球東海2次予選における一考察。

どうもご無沙汰しております。

久々のブログが何故か社会人野球ネタで非常に申し訳ない管理人です。(苦笑)

毎年複雑怪奇なトーナメント表を提供してその筋の方々の関心を一手に集める都市対抗野球東海2次予選

現在進行中のトーナメントは↓のとおり。

http://www.jaba.or.jp/taikai/2018/toshitaikou/pdf/tokai_2.pdf

 

それではこのトーナメント表が実際のところどこを気にして結果を見ていけば良いのかを少し考えてみました。

以下のテキストは、第1~第6の各代表になる為に必要な勝敗を示しています。数字の横の文字は各トーナメントでの配置、()内の文字は、その前のトーナメントでどこに配置されていたかを示しています。また、※以下で以前のトーナメントでどのような成績だったかを一部注釈として記載しています。

 

 

第1代表
4-0

 

第2代表
4-1

 

第3代表
4-1

 

第4代表
ヌネ 5-2
タ 4-2
チ 4-2
※第1代表トーナメントベスト4は4-2、第3代表トーナメントベスト4は5-2

 

第5代表
ノ 4-2
フ (ヌネ)5-3 (タチ)4-3
※第1代表トーナメントベスト4は4-3、第3代表トーナメント準優勝は4-2、第3代表トーナメントベスト4は5-3

 

第6代表
へ (ノ)4-3 (ヌネ)5-4 (タチ)4-4
※第1代表トーナメントベスト4は4-4、第3代表トーナメント準優勝は4-3、第3代表トーナメントベスト4は5-4
ヒ (タ)5-3 (ヌネ)6-3
※第1代表トーナメントベスト4は5-3、第3代表トーナメントベスト4は6-3
ツ4-2
※第1代表、第3代表トーナメント2連敗(1次予選組がいない①~④のブロック)
トテナニ5-2
※第3代表トーナメント2回戦敗退
ハ6-4
※第3代表トーナメントベスト4(その中でも4位の成績)

 

こうして見ると、以下のことが見えてきます。

・第1代表トーナメントでベスト4と2回戦敗退以下(第3代表トーナメント回り)では各代表になる為に必要な貯金は前者の方が1少ないため有利。場合によっては5分の星でも代表になることも出来る。ここがまず大きな分岐点。
・実はベスト4まで行くと準決勝で負けても決勝で負けても大きな差は無い。
・それは第3代表トーナメントでも似た傾向がある。ベスト4まで行くと貯金2で代表になる事は可能だが、2回戦で負けると最終的に貯金3が必要。
・唯一の例外は1次予選組がいないブロック。ここは実は貯金2で代表になることは可能。更に言うと、先に勝ったのに、第3代表トーナメントの2回戦で負けると貯金3が必要になり、条件としては逆転する恐れがある。

 

こうして見ると、思ったよりも考えて作られたトーナメントですが、若干穴もあるのかなという印象です。

 

何はともあれ、社会人野球好きとしては、まずは昨日から始まった第1代表トーナメントの2回戦が大きな意味を持つと言うことになります。当面はこの2回戦4試合に注目しましょう。

 

2017/3/19 JFLファーストステージ第3節 FCマルヤス岡崎対ソニー仙台FC

S仙台5-4(2-2)マルヤス(@名古屋港サッカー場

 

6分、右サイドの杉本から上がったクロスをファーで盛礼良が落とし、そのボールを中央で詰めていた佐野がダイビングヘッドで押し込みマルヤスがいきなり先制点を奪う。これが乱戦の号砲となった。風下のS仙台はラインコントロールが不安定なマルヤスDFラインの裏を低く速いボールで狙っていく。すると15分に左サイドの裏を抜け出した藤原がそのままゴールを奪い同点。更に23分、今度は左サイドからのクロスボールに対し、ゴール前中央で上手く身体を入れ替えて抜けた内野が流し込み逆転に成功。なおもS仙台が押す展開となったが、マルヤスは44分に一瞬の隙を突きオーバーラップした左SB安藤が裏を抜けると折り返しから最後は盛礼良が押し込んで2-2と追いつき前半終了。

 

風向きが変わって後半、S仙台は58分にまたも左サイドの裏抜けから最後は逆サイドに展開し秋元がゴールを奪い3-2と突き放す。しかしマルヤスも外からの攻めでなんとかCKを拾うと69分に熊澤のヘッドでもう一度3-3に追いつく。そして81分、今度は逆側のCKから全く同じような形で熊澤のヘッドがゴールネットを揺らし、マルヤスが4-3と再逆転に成功する。このまま逃げ切りたいマルヤスだったが、交代選手のスピードが効果的に働いたS仙台の攻めに対し防戦一方に。そして85分、S仙台右サイドからの攻めにマルヤスは不用意なファウルを犯してFKを与える。S仙台はこのチャンスを逃さずゴール前混戦から吉田が押し込み4-4の同点に。


そして4分提示されていたATの4分が経過しようとしたところでS仙台は右サイドのCKを獲得。最後のチャンスに放たれた冨沢のボールは強風に流されながら曲がりそのままゴールへ。これが劇的な決勝ゴールとなり、逆転する事三度、0-0から4-4まで五度のタイスコアが発生する大熱戦となったこの試合は5-4でS仙台の勝利となった。

 

マルヤスは押された試合の中で効率良く点は奪えたと思う。ただDFラインのコントロール、特に3-4-3で来たS仙台の両翼が上がった際の対応が統一されずにDFの横の間隔が開いてしまったことと、単純に縦のギャップが生まれてオフサイドが奪えなかったことという縦横両方の面で悪さが出てしまった。また、攻撃でもサイドからの攻撃は効果的に働く場面があったが両サイドハーフの杉本、地主園の両者が攻めでボールに絡む部分が少なかったのも苦しかった。その一因として、盛礼良がサイドに流れすぎてしまう点も気になったところ。出来れば盛礼良がもっと中央で構える形が欲しかった。

 

そんな中でも良さが見えたのは熊澤と安藤。熊澤はCKからの2点は上手くマークを外してのゴールであったし、守備でもボランチの相方が不安定な出来だった中孤軍奮闘した印象がある。安藤は激しい上下動を繰り返してなんとか左サイドを制圧されないように奮闘していた。

 

S仙台とすればあれだけ裏を取れればもっと楽に勝てたようにも思うが、セットプレーを含む球際の守備に課題が残ったように感じた。3バックなので多少なりともサイドの深いところはやられるとすればもう少し中央で頑張らないと守備が安定しないのではと感じた。

 

攻撃の部分では中盤で組み立て役となった新加入の菅井が印象に残った。基本縦に速く裏を取りに行くS仙台の攻めにおいて、中盤で彼がボールを持つと八戸で培われたと思われるショートパスで攻撃のリズムが変わるのが明らかに分かった。攻撃の狙いを絞らせないという点において、今後のS仙台の攻撃における鍵を握る選手になるのではないだろうか。